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くる、くるくるくるくる。
「…だから、この角度を求めるためにここを求めて…」
くる、くるくるくるくる。
「い、いかがで…すか…?」
くるくると、流星さんによって回されていたペンが、先を下にして綺麗に止まる。
不正解かもしれない、と手に汗を握りながら今書いた答えを見ていると、空気が動いた。
赤色が目の前で楕円を描き、そのまま私の左手に握られていたキャップに小さな音を立てて収まった。
とっさに顔を上げると同時に、頭を撫でられる。

「はい、正解」


---------------------------
草冠に明るいシリーズ(要するに萌え)
友達とどんな仕草に萌えるかについて語ってたときのネタ。
え、どこが萌えるって…佳月の持ってるキャップに流星さんのペンが綺麗に収まったとこ…ですけど…;
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スカート主義が災いして、今年の冬も全身で寒さを吸収していた。
定期券の出し入れが面倒くさいという理由で、日頃手袋は付けない。
そんなつまらない意地を張るから、特に手の指先の被害が甚大。
気がついたら両手を摺り合わせたり息を吹きかけたり。
どうせ何度やっても温まらないと分かっているけれど。

「あー、鼻まで真っ赤になってるよ」

もう少ししたら、苦笑して迎えてくれるあの人がいる。
両手で頬を包んで手を取ってさすってくれるから、この寒さも実は嫌いじゃない。
お腹もいっぱい、足もポカポカ。
流星さんが出してくれた緑茶を飲みながら食後の微睡みを満喫していた。

階段型の小さな棚があるくらいで、テレビも電話も置いていないこの部屋は、普段はご飯を食べるか仕事に使うかくらいらしい。でも、今日は珍しく、ラジオが流れている。
普段は滅多に出ていない。
機械的な音よりも自然な音の方が自分を見つめることが出来るから、だそうだ。
ラジオが顔を出すのは、決まった日だけ。
さり気なく、机に置いてある。
付けるのも、付けないのも私の判断。
部屋の雰囲気とかけ離れた流行曲がラジオを通して響いている。
アーティストの説明があったけれど、きいたことのない名前だった。 

机に片頬を乗せて、斜めに座る流星さんの上着を小さく引っ張る。
台帳に書き込んでいた手を止めて向けてくれる瞳は優しい。
何?と言って撫でるのは、子供扱いされているようで嫌だけど、どこかでは子供扱いしてくれる大きさに安心する。
だから、彼の隣なら自分の気持ちを整理したり、答えを見つけることが出来る。

「さっきの答え、分かりました」

流星さんの服を掴んだまま、足の暖かさに目を閉じる。

「世間で歌われている曲の数ほど、『好き』も『付き合う』も形があるんですよね」

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振られたことに結論はでなくても、自分の気持ちを肯定(?)してくれたことに感謝してる話。 
意識の浮上と共に重い瞼を上げると、流星さんが私を見下ろしていた。
肩越しに見える空は暗く、ぽっかりと月があった。

「膝掛けだけじゃ寒いから。中入っておいで」

時間は六時だという。しばらくぼんやりとしていたら、とんでもなく図々しい状況を作り出していることに気づいて慌てて体を起こす。

「す、すいま――っ!!」

せん、と続く言葉は突然目の前に出された何かによって遮られる。
吃驚して目を瞑ると、堅く閉じた瞳に冷たいそれを押しつけられた。
悲鳴のような変な声をあげると、流星さんが小さく笑う。

「夕飯作るから。できるまでこたつの中で待ってて」

立ち上がり台所へ向かう流星さんの足音を聞きながら、視界を覆うものを取る。

(なんでこんなものを…)

夢現な頭を一生懸命働かせ意味を考えた先で、 答えに行き着いた。

「あーだめ、むりー」

意味もなくぼやきながら、また元の位置に――水で濡らしたタオルを押し当てた。
その冷たさに暖かさを。
こみ上げてくる熱さに寂しさを感じながら。

夕飯が出来るまでには涙が止まればいいと、思いっきり絞り出した。
「例えばね」と、しばらくの沈黙の後に流星さんは切りだした。お茶を両手に持って、庭の方を向いて。

「君が『好き』も『付き合う』も相手を納得させることができる説明をできたとしたら、ノーベル賞が貰えるよ」

「…は?」

突拍子もない言葉に思わず流星さんの横顔を見てしまう。
何を言い出すんだこの人は。
でも、ゆっくりとこちらに顔を向ける灰色の瞳は真剣な眼差しだった。

「世界はシンプルになる。もっと言ってしまえば、戦争もなく平和になる」

言葉の意味を求めて見返していると、ふと目を細めて「僕の持論だけどね」と付け加えた。

「つまり、『好き』も『付き合う』も未確定なものってこと」

表でベルが鳴る音が微かに耳に届く。
流星さんは立ち上がり、「ま、ゆっくり考えてみて」と、店へと出ていった。

持っていたお茶を脇におき、縁側に上半身を倒して仰向けに寝転がる。
屋根の向こう側に見える赤い空を見ながら、深いため息をついた。
どうして人を好きになることはこんなに苦しくて難しいことなんだろうか、と。


昔から白黒はっきりしたことが好きだった。
世界には好きなことと嫌なことがあって、目の前に現れるそれらを自分の基準で分けていけば良かったから。
子供の頃からそうだった。
そんな世界に満足していた。
なのに、歳を重ねるごとに絶対だった境界線は曖昧さを持ち出し、白黒だけでは世界は見えず、グレーの世界が足を掴んだ。
大嫌いだった、グレーで溢れる世界が。
だけど、一番大嫌いだったのは、 グレーを受け入れない自分だった。
「なにかあった?」

そんなつもりはなかったのに、見事顔色を読まれた。
両頬に手を当ててぐるぐる回しながら、別に…と無理にでも笑ってみせる。

「別に…何かあるんでしょう?」

私の手首をとって頬から外すと、あなたは顔と雰囲気にでやすいから分かりやすいと笑った。
聞いてあげるから言ってみなさい、と。
本当は言うか言わないかを迷っていた。さっきまで…ここに座るまで迷っていたけど、相談しても仕方ないことだと思って言わないつもりでいたのに。
たっぷり時間をかけて、経緯を考えて。その間も流星さんはお茶を飲んだりお菓子を食べたり。
隣に座って無言でずっと待っていた。
やっと口を開く気になってみたけれど、直接本題に入るのは難しい。
だから遠回しに遠回しに話題をつめていく。

「…流星さんって、人を好きになったことってありますか?」
「初恋だってあるし、恋人もいたよ」

そっか、恋人いたのかぁ…と眉をひそめると、昔の話だけどね、と苦笑した。
だったら、この話は分かってもらえるんだろうか。

「告白したんです」
「どんな人に?」
「友達、です」

思い出す、昨日の情景。
教室で、向き合って、課題をしていた時に何となくの雰囲気で言った。
好きだから、付き合って、と。心のどこかで期待があった。
受け入れてくれると。
自分の気持ちが、相手に届くと。

「ふられました。理由付きで」
「どんな理由?」

耳に残る彼の声と目は、真っ直ぐに私を見ていた。
真剣な目で、少し困りながら。

「『好き』と『付き合う』って何?って」

それがわからないから好きになれなくて付き合えない、と。
ごめん、ではなく、ありがとう、で締めくくられた。

「佳月さんは、その質問に答えたの?」 

穏やかに聞く流星さんの声は、とても穏やかで。
それは私の中にある何かを引き出すように優しく。
私は弱く首を横に振った。

「彼を納得させることはできませんでした」

自分は『好き』と『付き合う』の定義を持っていた。
実際はどんなものが正しいのかは分からない。
でも、私自身が考えるものは確かにそこにあった。
私にとって『好き』は一緒にいて欲しい人で、もう少しだけ特別にして欲しくて、私もちゃんと力になりたくて。
『付き合う』は、一緒にいる時間をもっと増やしたいってことで。
もっと話してお互いのことを知ることで。
曖昧だけど、曖昧なりにもっていた『好き』で『付き合う』というもの。
でも、それを頭に浮かべて言葉にしようとしたときに、私まで疑問を感じてしまった。

それは『親友』とどう違うのか、と。 



「でも、その『好き』は親友じゃない『好き』なんだね」

自分の膝を見ながらコクンと頷いたら、そっかーと頭をなでられた。流星さんの手のひらは暖かかった。

「でも、どう違うかを説明できなくて」

そう思うと、やっぱり私の『好き』はloveではなくてlikeなのかもしれない。
いや、そもそも、親友にだってloveを使うんじゃないだろうか。
隣人を愛しなさい、の通り、もしかしたらlikeもloveも同じなんじゃ…。
ぐるぐる考えていたら、話は終わっていた。ふられた悲しさよりも、『好きでつき合う』を説明できなかった困惑の方が自分には強かった。
冬が近いね、もうそろそろアレを出さないといけないな…と、いつもの流し姿に羽織りを着て流星さんはため息をつく。
アレってなんですか?と聞いたら、きっと明日には見れるよ、と苦笑した。
どうやら、あまり好きなものじゃないらしい。
寒い日に出さないといけないもの…コタツとか?と当たりをつけていると、しかし…と私の足を見た。 

「若いね、こんなに寒くてもスカートだなんて」 

流しだって似たようなものじゃ…と突っ込みつつ、有り難く膝掛けを広げる。 

「女の子の特権ですから」 

ふふんと鼻高になってみても、おじさんの流星さんには理解しがたいようだ。 

「でも、まぁ綺麗な足が見れるから好きだけど」 

さらっと言われたセクハラ発言を、それはどうもと軽く流しつつ、内心は結構喜んでいた。
話して分かったけれど、陽気というか人懐っこいというか。意外と軽い調子らしい。
第一印象は優しいだけだったけど、やはり流星さんも人だったというわけで。
こうして一つ一つ知っていっては驚いたり喜んだり。 

「だったら今度来るときもスカート履いてこようかしら」 

さらりと言ったセリフの中に隠した、私の思いに彼が気づいてくれるのはいつだろう。 

「じゃあ膝掛けをまた用意しておくよ」 

次に会う約束がある子供っぽい喜びを隠し、この人と同じ位置に立てる日を待ちながら。 



翌日、洋服を着て居心地悪そうに盆栽を手入れする流星さんを見た。


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親友を目指して背伸び中。
いつでもおいで、の言葉に甘えて暇なときは「雪月花」に顔を出した。
たまにしかお客さんが来ないので邪魔にはならないようだ。
私と流星さんはいつも何かしら話題を持ってきて他愛もないやりとりで笑いあう。
流星さんのことをたくさん知った。
瞳が灰色なのはおばあさまが中国人だからとか、やっぱり盆栽が好きだとか、若い顔して実は39歳とか。
あまり同年代以外の人と話さず、さらには男嫌いの自分が相手にリードされてポンポン会話が弾む。
話してみたいとは思ったけれど、話が合わないと思っていた

十月も終わる頃には、マフィンも随分きれいな形に焼けるようになった。

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短い上に話のネタが…
名前で呼んでいい?だから私のことも名前で呼んで、と言われた。
彼の名前が流星で私の名前が佳月だから、と。
初めて、年上の人を名前で呼んだ。 

通されたのは裏庭の縁側。
四畳くらいの大きさしかないけれど、細かいところまで手入れが行き届いるようで、流星さんの人柄が見えるようだった。
木々は庭を囲むように立ち、夏の日差しが縁側に差さないよううまくこちらを隠している。
光の当たる池には二匹の真っ赤な鯉が気持ちよさそうに体を動かし、透明な水面を穏やかに揺らしていた。
静かだった。
久々に穏やかな気持ちを抱いて溜め息をついた。

「あまりおもしろそうなものなくて、すまないね」

隣に腰を下ろした流星さんは、用意してくれた麦茶をコップに注いで手渡してくれた。
トレイにはこの前もらったお菓子類と、私が作ったマフィン。
味には自信があるけれど、形が歪になってしまった点が気になる。
時間さえあればいくらでも作れたけれど、八月も半ばに入ってしまって焦ったら結果があれだ。 

(いや、でも私、結構頑張った) 

「それじゃあさっそく…」 

腰を落ち着けた流星さんは小皿を受け皿にしておもむろにマフィンをパクリと口に入れた。
もぐもぐ動く口を緊張しながら見つめる。
はたして結果は。


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今更ですけど、フィクションです。
よく作るのはマフィン。
何故なら生地一つで何個も作れるから。
どれか失敗して焦げたとしても、どれかはうまく焼けている。
一先ず、美味しそうなだと思う具をマフィンの中に入れて焼いて、試食して、美味しければ誰かの口に、不味ければ私の口に。
とは言っても、自分が美味しいと思っても相手が食べたらそんなことない時だってあるかもしれない。
そう思うなら買えば良い話だけど、手作りしたものを美味しいと言って食べてもらえる方があげた手応えみたいなものが付いてくる。
だから今日も焼いたのだ、この前のお菓子のお礼に。

古書店「雪月花」は一本入った奥の裏路地にひっそりとある。
看板はない。
スライド式の木の扉を両方に広げて店を開ける。
だから、開店準備はとても簡単なんだけれど、如何せん、蘇芳さんはA型(たぶん)。
店先の盆栽の世話をするだけでなく、店内の本棚の埃も払う。たまに日干ししたり。
毎日毎日飽きないのかしらと思うほど、その日課をこなしている。だから、古書店の奥ゆかしさを纏いつつ、店内は小綺麗。

外からのぞき込むように店内をみると、お客さんはいなかった。
ついでに蘇芳さんもいない。
奥の部屋にでも引っ込んでいるのだろうか。
蝉も鳴いて日も照りつけて。
じんわりと背中に汗を感じるけれど、入ったことがなくて、中に入る勇気がない。
片手には今日の午前中にやっとうまくできたマフィンの入った箱。麦藁帽子を被って、少しお洒落もした。
だけど、挨拶友達でしかない人に突然話に行くのは考え違いなのかとこんなところまできて怖じ気づいてしまっている。 

「こんにちわ。お嬢さん」 

驚いて振り向くと、すぐ後ろに目的の人がいつもの笑顔で立っていた。 

「こっ、こんにちわ、蘇芳さん!」 

「名前覚えてくれたんだね」 

ふわふわっと微笑む顔に思わず自分も微笑み返した。 

「あ、の。先日お菓子いただいたのでお礼にマフィン焼いてきたんですけど…」 

怖ず怖ずとマフィンの入った箱を前に差し出すと、蘇芳さんは少し驚いた顔を見せて嬉しそうに笑った。 

「わざわざありがとう。マフィン、好きだから有り難くいただくよ」 

箱を受け取って箱に鼻を近づける。果物のマフィンなんだね、と言った。 

「良かったら中に上がって?お礼にお茶をご馳走するよ」 

お礼をお礼で返されてなんか可笑しい気もするけど…まぁいっかとその申し出を受けた。
最初からそのつもりだったし。
 
店内に入る蘇芳さんが「そうだった…」と私を見た。 

「名前、良かったら教えて?」 


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文が酷い…。
マフィンは林檎と桃味。
長かったテスト期間がやっと終わった。
明日からは夏休みで、いつもは夜にしか横浜には戻ってこれないのに今日はまだ三時。
やりたいことは沢山考えている。
とりあえず、ずっと計画していたお菓子を作ろう。
それで、いつか亭主さん…蘇芳さんから貰った和菓子のお礼をしなくては。
うまくいったら、もう少し仲良くなれると良い。
名前を知ってもらって、お話して、私も知りたい。
地元の人と仲良くできる機会なんて少ないし、そもそも友達も少ないから。
切君や東郷さんと話しをするためにも、まずはあの人からだ。

「お帰りなさい、今日は早いね」
「ただいま!はい、テストやっと終わったんです」
「そっかーだったら明日から夏休み?」
「そうなんです」

少し長くなった他愛もない会話に気持ちが弾む。
友達が増えるのはうれしいけど難しい。
昔はつっけんどんにしか友達と知り合えなかったから、今度は大切に仲良くなりたい。
今年の夏は、楽しくなりそうだ。

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佳月、高一の夏。
わけわからん。
意味もなく泣きたくなるときだってある。突拍子もなく空を見上げながら。
帰り道、夜も九時を回った頃、誰もいないことを確認して、目頭が熱くなる。
空を見上げるのは気持ちがいい。無限に広がる夜、たくさんの星、ぽっかり浮かぶ月。狭くなっていた感情が広がるようで。生まれ変わったら月になりたいなんて思ってしまうほどに、気持ちに余裕がないことを知った。
そう思ったら、また涙が伝って。
(あぁしまった、やまとの家に泊まれば良かった…)
「もしもしお嬢さん」
ふいに声がする正面へ顔を向けると、家から漏れる光に照らされて、「雪月花」の亭主さんが手を振っていた。
ちょっとびっくりしてしばらく反応できずにいたら、カランコロンと下駄を鳴らして近付いてくる。慌てて袖で涙を拭うと、ちょうど目の前にきた彼が「お帰りなさい」と微笑んだ。
頭を下げたら釣られるように自分も微笑んでいた。柔らかく笑う人は好きだったから。
「…どうかされたんですか?」
会話らしい会話をするのはこれが初。何か用事だろうかと尋ねれば目の前に透明なビニールが差し出された。
「実家から送られてきたんだけど、食べきれないから。みんなに配ってて、良かったらどうぞ」
差し出された袋を受け取ると、モナカやら饅頭やらのお菓子類が両手の平くらいに入っていた。
「いつも挨拶してくれるから。お裾分け」
良かったら食べて、と目の前の人はもう一度微笑んだ。何か言わなくては。とりあえずお礼だろうと考えていたのに、口から出たのは
「お名前なんですか?」
だった。キョトンとする「雪月花」の亭主さんは、それでも次には「あ、名前まだだったね、ごめんごめん」と言って教えてくれた。

蘇芳 流星だよ、と。


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なんかプロットみたいな話だ…。
私の朝は早い。
実家のある横浜から学校のある東京まで。
徒歩、新幹線、バスを使って片道三時間。
六時に家を出なければならないって、一体どこの修行僧よ。
石頭の親父が頑として一人暮らしを認めてくれなかったから、こんな苦労をしている。
文句も言いたくなるのは当たり前じゃない。
それでも眠い目を擦りながら頑張って通っているのは、どうしてもその高校に行きたかったから。
幼稚園から一緒の太陽と、小学校から一緒のやまと。
友達を作るのは苦手だから、自然、たまたま話した二人といることが多くなって…今では依存症みたいなものだ。
二人と長くいたいが為に苦労も我慢している。

だけど、この長い道のり、実は気に入っていることもある。
一つは、まだ十分に目覚めない横浜の空気を堪能できること。教会から微かに聴こえる祈りの声とか、ランニングする足音とか、電柱に止まってる雀の鳴き声とか。桜、新緑、紅葉に雪。うん、目覚めには悪くない環境だ。
それからもう一つ。

「おはようございますっ」
「おはよう、今日も早いね」

違う日の朝に、たまたま違う道を通ったら、そこにその人はいた。古本屋「雪月花」の亭主さんで、最近見つけた挨拶友達。
店先の盆栽を眺めたり掃除をしたり。いつも何かしているけど声をかけたら絶対返事をしてくれる。
今日も手を軽く振りあって、過ぎ去った。それだけしかしないのに、いつも元気が出てくる気がする。
いつか仲良くできるかしら。
いつもそう思って、いつかの日を夢見て、今日も長い坂道を嬉しくなりながら駆け降りた。


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プロフィール
HN:
サルサルタ
性別:
女性
職業:
学生
自己紹介:
短編小説書いています。
細かい設定などないので、ぼーっと見てくださると嬉しいです。